こういうものを書きました

http://mltr.ganriki.net/unc0002k.html#20171

 【珍説】
――――――
 テロリズムを生み出す背景としては,第1に絶対的な貧困,第2に極端な民族・地域差別,第3に,そこから生まれる「絶望」がある.

――――――首藤信彦著『現代のテロリズム』,p.19

 【事実】
 Alan B. Krueger(経済学者)が統計的手法によって調査した結果,それらは全て否定されています.
 彼の分析を纏めると,以下のようになります.

――――――
(1) 世論調査でしばしば見られることは,政治的暴力やテロリズムに対する支持が,教育水準が高く,かつ世帯収入も高い人々の間で多くなっていることである.

(2) テロリストは,彼らの出身母体となる人口全体に比べると,教育水準が高いという傾向があり,かつ貧困家庭の出身である傾向は少なくなっている.

(3) 国境を越えて行われるテロ活動を見ると,国際テロリストは市民的自由が抑圧され,かつ政治的権利もあまり与えられていない国の出身者である傾向が強くなっている.

(4) ある国の一人当たり所得や非識字率は,その国出身の国際テロリストの人数とは無関係である.

(5) テロリストは,全体主義的体制で抑圧的な貧しい国を攻撃するよりも,市民的自由や政治的権利が多く与えられている裕福な国を攻撃する可能性が大きい.

(6) 距離は重要である.すなわち,国際テロリストや外国人反乱者は近隣諸国出身者が多いという傾向がある.

(7) 一般的な手法を用いるテロリストは,テロ活動に対する恐怖感を広げ,彼らの望む効果を得るためには,メディアを必要としている.

――――――『テロの経済学』(東洋経済新報社,2008.8.14),p.219-220
 また,絶望説についても,以下のように述べています.

――――――
 ほとんどの場合,テロリストは生きる目的をなくした人ではない.
 逆に,彼らはそのために死んでもよいと思うほど,何かを深く信じている.

――――――同,p.61
 統計のデータなど詳細は,同書を参照してください.

 その上で同氏は,首藤のような主張にとびつくのは,
「非常に複雑な問題に対しても,安心をもたらすように簡単な答が提示できるからである」(p.63)
と指摘しています.
 経済学者なので上品な言い方をしているが,要するに
「安易な結論に飛びついているだけ」
ということでしょう.

 間違いを犯すなとは言わない.
 だが新事実が分かった以上は,訂正するなり絶版にするなりすべきではないでしょうか.

 「現場重視」
http://blog.goo.ne.jp/sutoband/e/03fdc5aba5f001a0c2f1cfc0e88696de
の人が,まさか「現実」から逃げるようなことはないと存じますが……

 【追記】
 トラックバック機能も切ってやがったか.